「インビクタス」 |
さて、映画はどうだったかというと、凡作ではないのだが、かなり苦しい感じがした。1995年に南アフリカで行われたラグビーのワールドカップが背景になっているが、実際には南アフリカという国の国民意識の形成にラグビーがどう働いたか、ネルソン・マンデラという政治家がどう寄与したかということがテーマなのである。
したがって、セリフが多くて映像で説明する場面が少ない。つまり、あまり映画的な題材ではないのだ。
なぜそう感じるのか。実は映画を見る前に原作であるジョン・カーリン著『インビクタス 負けざる者たち』(NHK出版)を読んでいたのだ。この本はスポーツ・ノンフィクションというよりも、南アフリカに関する優れた現代史の読み物である。
マンデラという政治家がどのような軌跡を歩んできたか、アパルトヘイトがどのように機能していたか、ラグビーというスポーツが南アフリカ社会でどういう位置を占めていたか、白人のスポーツ、アパルトヘイトの象徴だった南アフリカのラグビー・ナショナルチームをどうすれば、国民的なコンセンサスを結集する道具にできるか、などなど。非常に多くのエピソードが語られている。そして、そうしたエピソードが最後にワールドカップの決勝戦へと収斂していく。
非常にうまく書かれていて、感動的な本である。
これとくらべると、映像で伝えられることには限界があって、イーストウッド監督は健闘はしているが、大成功はしていないと思う。いろいろ問題があるのだが、ひとつだけあげておくと、ラグビーのシーンが全然迫力がないのだ。あれなら日本のテレビで見る大学のラグビーのほうがはるかにダイナミックである。アメリカ人にはラグビーというスポーツのおもしろさを理解するのは難しいように感じた。全体としては「ビミョー」としかいいようがない映画であった。