2006年 02月 13日
「ミュンヘン」 |
映画「ミュンヘン」(スティーヴン・スピルバーグ監督)を見た。見終わったあとにずっしりと重いものが残る映画だが、このところ失敗作ばかりだったスピルバーグが久しぶりに本領を発揮した映画だと思う。非常によくできている。164分と長い映画だが、内容からしてこれだけの長さは必要だろう。
主人公はイスラエルの諜報組織モサドの構成員で(形式上も実質上も組織から離れて)、1972年のミュンヘン・オリンピックで選手村を襲撃してイスラエル選手団を人質にしたテロ組織「黒い九月」の主要メンバーを、ひとりひとり殺していくという陰惨な話である。報復のための殺人のそれぞれがきわめてリアルに描かれているので、気の弱い人には向かないかもしれない。PG-12というレーティングだが、たとえ親が一緒でも小学生に見せる映画ではないように思う。
リアル、というのはどの殺人でもスムーズに進行することはなく、必ず何かアクシデントがおこることや、組織を離れたとはいえ資金はイスラエル政府から出ているので「あらゆる出費に対して領収書を取れ」と指示されたりすることなどである。これは新潮文庫で原作となった本が訳出されているので、読んでみようかと思う。
目には目を、テロに対抗してテロをというイスラエルの戦略を担った人物が主人公である。したがって、こうなるだろうという予想の範囲でストーリーは展開する。だが、テロがリアルに描かれるだけに、主人公の変貌が説得力を持って迫ってくる。「このやり方では平和は得られない」と最後に彼が主張するのである。
ラスト・シーンでニューヨークの街の遠景が描かれるが、そこにははっきり世界貿易センター・ビルが映っていた。スピルバーグは名前からしてすぐわかるようにユダヤ系アメリカ人であるが、その彼がこのような映画を撮ったことは9・11テロ以降のブッシュ政権への批判が根底にあるのは明らかだろう。
各国でテロが横行して「鉛の時代」と呼ばれた1970年代のヨーロッパの雰囲気がよく伝わってくる映画である。ちょうどその頃わたしはローマにいたのだが、ささくれ立つような街の空気を感じていたものだ。あの時代と比べていまのほうがよくなったかと問われれば、決して肯定的な答えができないのが悲しいが。
by himitosh
| 2006-02-13 17:26
| 映画