Diario della ritirata 退却戦日誌 ― 柴野均のブログ日記

デスクトップPCの買い替え

半年ほど前から挙動不審が続いていたデスクトップPCがつい三日前にクラッシュしてしまった。ときおりフリーズすることが多くなり、いろいろと修復につとめてきたのだが、とうとう起動しなくなってしまったのだ。

秋葉原のPCショップで頼んだBTOパソコンだが、買って６年になる。なにしろ退職後は朝起きてから夜寝るまでずっとつけっぱなしのPCなのだから、ハードに使ってきたことは間違いない。たぶんストレージがダメになったのだと思うが、それ以外にも光学ディスクドライブが動かなくなったりして、あちこち不具合がでるようになっていた。リストアすればまだ使えるだろうが、それに使う時間もエネルギーも考えると買い替えたほうがいいと結論を出した。

またBTOパソコンにしてもよかったのだが、注文から納品まで一週間はかかるのでそれでは仕事ができない。今度は大手のPCを買うことにしていろいろ調べた結果、DELLのデスクトップPCに決めた。全体として価格と性能のバランスがとれているように思ったのだ。以前使っていたDELLのPCも悪くはなかった。即納というカテゴリーから選んで注文したのが今週の月曜日。それが水曜日の昨日の昼には届いた。こんなに早かったかな、昔はもっとかかっていたような気がする。

また面倒なPCの設定をやらなければならないかと覚悟していたが、驚くほど簡単に使えるようになった。まあデータはほとんどオンライン・ストレージにあるし、Web上の設定はブラウザに任せたままですぐに復活できた。ソフトもほとんどがサブスクリプションなので、簡単に再インストールできた。昔はPCを買い替えた場合の引っ越しソフトというのがあったと思うが、あんなものまったく必要ないではないか。ものの１～２時間でもう仕事にかかれるようになった。

新しいPCはさすがに夾雑物が皆無なので、恐ろしく挙動が速くなった。これも使っているうちにだんだん垢がたまって遅くなるのだろうが、当分は快適なPC環境を楽しめそうだ。

新型iPad mini購入

発表されたばかりのiPad miniの新型を注文した。今月の終わりには手元に届きそうだ。
実は定年退職後に携帯電話を解約した。基本的に自宅にいる生活になったため、緊急の連絡は固定電話でとれる。それよりも、寄る年波で聴力が衰え、電話でやり取りするのが難しくなったことがある。そのため主たる連絡手段として用いるのはLINEやメールになり、スマホを持つことも考えたが、老眼の目であの小さな画面上の文字をチマチマと操ることを考えるだけで憂鬱になる。
対応策として以前から手元にあったiPad miniを引っ張りだし、外出時にはモバイルルータに格安SIMを差して使うようにしてきた。それで一応は何とかなってきたのだが、わたしのiPad miniは2012年に出た第一世代のもので、とにかくあらゆる動作がもっさりしていて、ものすごく反応が鈍い。電子書籍を読むぐらいなら何とかなるのだが、ネットにつないであれこれやると、途端にイライラするほど動きが悪くなる。7年も使ったのだから、仕方がない。
こういう事情で新しいiPad miniが出るのをずっと待っていたのだ。2015年にiPad mini 4が出てから3年半が経過して、ようやく新型が発売されることになった。わたしの感覚では2年以上待っていたことになる。
今度のiPad miniは基本的に外で使うことを想定しているので、WiFiモデルではなくてセルラーモデルを買うことにした。モバイルルータを別に持ち歩くことも面倒だったのである。ちょっとした物入りだが、これで少なくとも5年ぐらいは世の中の人びとと普通にコミュニケーションがとれるのなら、納得である。

ユイスマンス『さかしま』『彼方』

本棚にずっと積ん読状態（実際には電子化してHDDのなかに詰め込んだ状態）だった本を次々と読んでいる。

この一週間ほどのあいだにジョリス=カルル・ユイスマンスの『さかしま』と『かなた』を読んだ。19世紀末のデカダン派の代表的な作家のひとりとされているユイスマンスだが、ずっと読んだことがなかった。

今年の夏頃から夜中に目がさめたとき寝床でプルーストの『失われた時を求めて』をiPadで読んでいるのだが、ふとユイスマンスも読んでみようと思って手にとったのだ。

そして読んでみて、なるほどこの二人の作家はよく似てるなあと思った。細かな感覚や趣味に関するこだわり、ひたすら自分の意識に深く沈潜していく姿勢などは共通している。

プルーストの作品のように一人称の小説ではないが、『さかしま』の主人公であるデ・ゼッサントという人物はユイスマンスの自画像であろう。

とにかくストーリーらしきものがなく、引きこもる没落貴族の思索や趣味の話と神経症の症状に関する話が延々と続いていく。これが創元推理文庫に入っているのはどうしてだろうか？　

澁澤龍彦の翻訳は半世紀以上昔のものなのに凝りすぎてもおらず、行き届いていて感心した。註はあらずもがなのものが多いが、昔のことだから仕方がないのだろう。

『彼方』は青髭ジル・ド・レのことが扱われているのだが、今となってはその内容はいささか食い足りない。
ただ、この小説はジル・ド・レが本筋ではなく、青髭の物語を執筆している作家の動静が主たる対象になっている。これもその作家がユイスマンス自身と思われる。
これを面白いかと聞かれたら、興味深くはあるが小説としてはまったく破綻している、と答えるしかないだろう。
田辺貞之助の翻訳は端正で悪くない。たぶんこの小説の内容にはぴったりだと思う。
長年放置してきた本をこんな風に少しずつ消化している毎日である。

ハリイ・ケメルマンのラビ・シリーズ

『金曜日ラビは寝坊した』から始まるハリイ・ケメルマンのラビ・シリーズを読み返している。ニューイングランド、ボストン郊外の小さな町、バーナード・クロシングのユダヤ教会でラビを勤めるデヴィッド・スモールを主役にしたこのシリーズは、翻訳されている作品が七点ある。すなわち

『金曜日ラビは寝坊した』（1964）

『土曜日ラビは空腹だった』（1966）

『日曜日ラビは家にいた』（1969）

『月曜日ラビは旅立った』（1972）

『火曜日ラビは激怒した』（1974）

『水曜日ラビはずぶ濡れだった』（1976）

『木曜日ラビは外出した』（1978）

である（いずれも原著出版年）。わたしが学部の学生から大学院生ぐらいの頃に読んでいたもので、非常に面白く読んだ記憶があったために、もう一度読んでみようという気になったのだ。

金曜日から月曜日まではハヤカワ・ミステリ文庫に再録されているが、火曜日からあとはハヤカワ・ミステリ・ポケットブックのままで、いずれも今は絶版である。金、日、月は図書館にあったが、それ以外はネットの古本で見つけた。比較的に手に入れやすいシリーズである。

ラビ・シリーズは広義のミステリと呼べるかもしれないが、あまりミステリらしくはない小説である。犯罪とその推理と解決という核心はあるものの、物語の中心はアメリカのユダヤ人社会における人間関係にある。これが実に面白いのである。60年代から70年代にかけて、ソール・ベロウとかフィリップ・ロスといったアメリカのユダ人作家が活躍した時期があったが、ケメルマンのこのシリーズもそうした流れのなかに置くと理解しやすい。

シリーズ中の未読のものもあり、再読しても十分に面白い。こちらがトシをとった分だけ、味わいも深くなったように思う。

調べてみると未訳の作品が四点あり、それも取り寄せることにした。この冬はミステリを読んで過ごすことにしよう。

東京の週末

二週続けて週末に出かけた。今度は東京で、いくつかの用件をまとめてかたづけてきた。土曜日は研究会に出た。会場は新宿の工学院大学であった。西口から徒歩4分という場所なので、非常に便利である。現在は24階建ての高層ビルが校舎なのだが、なかに入って見ているうちにいろいろと思い出した。

わたしが小学校6年生のときだから、昭和35年（1960年）のことである。中学受験をする友だちに誘われて、四谷大塚の模擬試験をこの工学院大学の校舎で受けたことがあった。四谷大塚進学教室そのものもまだまだ始まったばかりで世に知られておらず、寂しい試験会場だったが、そのときに校舎の窓から西側を見たときに、こんな光景が広がっていた。

今の京王プラザホテルよりも西側は淀橋浄水場だった。この景色ははっきり憶えている。新宿副都心というプロジェクトが始まるのは1960年代半ば以降で、淀橋浄水場の閉鎖が1965年、京王プラザホテルが1971年にできて、その後高層ビルがこのあたりに次々と建っていった。70年代半ばに京王プラザホテルでやった友だちの結婚式に出たことを思い出したりした。

研究会が終わると外はすっかり暗くなっていて、並木にイルミネーションがほどこされていた。ああもうクリスマスも近いのだという感じがして、都会での生活感覚がすっかりなくなっていることを感じた。

夜は息子と一緒に夕食を食べてそのまま新宿御苑近くのホテルに泊まり、翌日は昼からの用事だったので、朝のうち新宿御苑の中を散歩した。天気はまずまずで寒くも暑くもない。新宿御苑も十年以上足を踏み入れていなかったが、まだ紅葉には早いので、人の数も少なくて気分が良かった。

あのゴミゴミした新宿のすぐ近くにこんなに広大な公園があること自体が奇跡のようなものである。ウォーキングやジョギングをしている人が何人もいたが、近くに住んでいれば天国であろう。入場料200円というのは決して高くない。立派な温室や

薔薇園があったりして、四季を通じて楽しめる。桜や紅葉のときには大勢の人がやって来るのだろう。天気も良くて、楽しい散歩だった。これからもあちこち散策をすることにしよう。